2011/10/04

2011年度 新入生歓迎学術講演会、開催


例年4月に開催されていた新入生歓迎学術講演会は今年度、残念ながら震災の影響のために延期になっていました。そこで、6月22日(木)、川村信三教授が担当されている新入生対象の「歴史学研究入門」の一コマを使い、無事に講演会が開催されました。講演者は、朝鮮王朝史、朝鮮儒教を中心に研究されている山内弘一教授。講演の要旨は以下のとおりです。

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「なぜ韓国は儒教の国なのか?」との問いかけから、19世紀末から20世紀初頭に活躍した愛国啓蒙運動の中心人物で、ジャーナリストであった張志淵(チャン・ジヨン)の思想と活動の紹介を中心に講演は行われた。張志淵は、1905年の乙巳条約(第二次日韓協約)締結時に、抗日救国の立場から皇城新聞(ソウル)の社説に「是日也放聲大哭」と書き投獄されたことで知られている。伝統的な儒学を修め、それに基づいた愛国啓蒙と抗日運動を展開させた張志淵は、彼の著書『朝鮮儒教淵源』において朝鮮儒教を歴史的・思想的に正当化しようとする。特徴的なのが、華夷思想の中で、「夷」であることを独自に解釈し、東方の地において「明夷」であることが「道明」であり、朝鮮が儒教の本場であることを主張している。また、もし儒教の祖である孔子が渡海し朝鮮の地で伝教していたならば、東アジア一帯に広く儒教の根ざした天下があったと張志淵は考える。なぜこのような考えが生まれたのか。中国が明から女真族による清に移行し儒が滅んだことを背景に、朝鮮の衰微は本当の儒者を用いなかったことに由来するもので、儒ではなく政治が悪いことを、激動の時代において自国を愛し啓蒙しようと努めたのが張志淵という人物なのである。

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内容は高度でしたが、新入生たちは耳を傾け聞き入っており、韓国が儒教の国であるという通念を現実の社会に即して検証する、歴史研究の醍醐味を味わえたことと思います。また、歴史学的見地から韓流ドラマを楽しむ方法や、韓国のお札に描かれた儒学者の肖像、檀君神話をモチーフにしたソウルオリンピックのマスコットに纏わる話など、講演の随所にスパイスがきいており、新入生にとって、歴史研究に引き込まれるような刺激のある講演会であったことは間違いないでしょう。