2012年度前期院生総会ならびに卒業論文発表会が4月29日に開催されました。新たに院生会へ加入した4名の新入生による熱のこもった発表が行われましたので、以下、発表者氏名と所属ゼミ、並びに卒論の題目と報告内容を発表の順に紹介いたします。
○堀内豪人(北條ゼミ)
「古代日本人の嗅感覚ーニオイの歴史ー」
堀内豪人氏は、仏教説話を中心史料とし古代日本人の「嗅感覚」に関して研究を行った卒業論文についての報告を行った。においが嗅ぐ主体である人間の想像力と結びつく過程、その想像力が政治や文化に及ぼした影響を考察している。史料的実証の難しい「人間の感覚」のうち、特に嗅覚は言及する史料の少なさゆえに顧みられてこなかったが、その困難な条件の下で古代の日本人の「嗅感覚」に迫る内容であった。質疑応答では、「ニオイ」と女性を結びつけることとジェンダー認識の関係性について、貴族などの支配階層を読者として想定し書かれた史料のみを利用して、その記述を一般化できるのか、といった質問が出された。これらの指摘は、報告者が今後の課題としている「香」を巡る問題についても、大いに示唆に富むものとなるであろう。
○任海守衛(豊田ゼミ)
「北西ヨーロッパにおけるローマ軍の食糧供給」
任海守衛氏は論文集、Sue Stallibrass and Richard Thomas (eds.), Feeding the Roman Army:
the Archaeology of Production and Supply in NW Europe, Oxford, 2008.の翻訳論文要旨に関する
発表を行った。広大なローマ帝国の領土の征服と維持には軍隊の活躍があり、それには食糧の供給が欠かせなかったと考えられる。その古代ローマ時代の軍隊の北西ヨーロッパにおける食糧供給を、穀物と食肉を中心に研究したものである。この問題は、様々な最新の考古学研究から検証がなされている。欧語論文集の翻訳ということで、質疑応答では、「各論文の原題と論者名も明記すること」「(論文内容の性質上)植物名なども()付けで原語表記を記した方がよいのでは」「論文を読む際は批判対象を意識して読むべき」などのアドバイスがあった。
「北西ヨーロッパにおけるローマ軍の食糧供給」
任海守衛氏は論文集、Sue Stallibrass and Richard Thomas (eds.), Feeding the Roman Army:
the Archaeology of Production and Supply in NW Europe, Oxford, 2008.の翻訳論文要旨に関する
発表を行った。広大なローマ帝国の領土の征服と維持には軍隊の活躍があり、それには食糧の供給が欠かせなかったと考えられる。その古代ローマ時代の軍隊の北西ヨーロッパにおける食糧供給を、穀物と食肉を中心に研究したものである。この問題は、様々な最新の考古学研究から検証がなされている。欧語論文集の翻訳ということで、質疑応答では、「各論文の原題と論者名も明記すること」「(論文内容の性質上)植物名なども()付けで原語表記を記した方がよいのでは」「論文を読む際は批判対象を意識して読むべき」などのアドバイスがあった。
○櫻井麻美(児島ゼミ)
「―マニエリスム庭園に見られる「狂気」的表現―ボマルツォの「聖なる森」モニュメント解釈」
櫻井麻美氏は、マニエリスムの一要素である「狂気」に注目し、それがどのような意味を持ち、具体化されるのかということに関心を持っている。よって卒業論文では、「狂気」的表現が特徴的にみられる、ボマルツォの「聖なる森Sacro Bosco」と呼ばれるマニエリスム庭園の個々のモニュメント解釈を中心として、庭園全体の意義を考察した。
報告では、先行研究を参考にしながら、造園者ヴィチーノが種々の奇怪なモニュメントの制作のために、当時の文学や古代の神話からアイデアを借用したこと、また庭園自体がヴィチーノの亡き妻のために捧げられたことなどを述べた。その上で、当該庭園はダンテの『神曲』のように、俗世の誘惑や悲しみを越えて「真実の愛」に至るという、自身の神話の世界を表現した可能性があると結論づけた。
質疑応答では、現在の庭園から造園当時の状態を如何にして復元するのかということに加え、「狂気」という言葉の意味を史料に基づき独自に定義づけていく必要性が指摘されるなど、活発な意見交換が行われた。報告者にとって、今後の研究において乗り越えるべき課題が多く見つかった議論であった。
○稲生俊輔(井上ゼミ)
「マックス・ウェーバーと東部農業労働者問題―ポーランド労働者とユンカー階級―」
稲生俊輔氏はマックス・ウェーバー(Max Weber, 1864-1920)が、最初期(1892~1899年)に研究対象とした、プロイセンを中心とするドイツ東部農村の農業労働者問題について、報告を行った。従来の封建的な東部農村社会の崩壊と、それにより引き起こされるポーランド人労働者の流入、というウェーバーの問題理解について、彼の政治的主張の中心が、ポーランド人労働者への民族主義的な排斥から、ユンカーらが自身の経済的利益のために政治主張を貫こうとすることに対する批判へと移行していく様子が示された。
質疑応答では、ウェーバーの著作を徹底的に分析しようとする報告者の試みへの評価があった一方、先行研究との差異が曖昧である点が指摘されたほか、ウェーバーの階級的出自とその交友関係、さらにはウェーバーと出自を同じくする同時代人からの反対意見について説明が求められた。また最後に、上層の知識人階級に属していたウェーバーと第二帝政期ドイツにおけるナショナリズムとの関係が、今後の課題として指摘された。