以下に部会発表の題目・写真と、特別講演の要旨をご紹介します。
部会研究発表
第一部会(西洋史 於 共用室A 4階)
坂口 万津子氏(上智大学大学院)「ドミニコ会美術にみる聖トマス・アクィナス像の成立と流布について――《聖母子と諸聖人》および《聖トマス・アクィナスの勝利》を中心に――」
荻野 恵氏(上智大学・外務省研修所非常勤講師)
「ポルトガル再独立期における対英外交と国家理性――対スペイン和平条約への過程――」
高橋 晶彦氏(上智大学大学院)
「国家人民党におけるランバハ事件の意義」
萩尾 早紀氏(上智大学大学院)
「ドルフース・シュシュニック体制についての一考察――1933年コンコルダートと1934年五月憲法を中心に――」
伊東 龍介氏(上智大学大学院)
「アイヒマン裁判再考――アイヒマンの責任の所在の追究――」
第二部会(日本史 於 共用室C)
宇仁菅 啓氏(上智大学大学院)「室町殿の右大将拝賀行列について」
ブラボ・アルファロ・パブロ氏(上智大学大学院)
「アレッサンドロ・ヴァリニャーノ第二次日本巡察(1590〜1592)巡察使の書簡から分かる日本布教状況」
山本 渉氏(一橋大学大学院)
「遷幸・官人・禁裏御料」
上田 良氏(上智大学大学院)
「第二次大熊財政末期と松方財政期における明治政府と佐渡鉱山との関係性の考察」
木下 有氏(上智大学大学院)
「ドイツ駐在陸軍武官電に見る独ソ開戦情報について」
第三部会(東洋史 於 共用室D 4階)
酒井 駿多氏(上智大学大学院)「漢代の辺境支配と民」
宮古 文尋氏(上智大学非常勤講師)
「清末預備立憲開始前後の地方官制改革案」
久留島 哲氏(千葉大学大学院)
「19世紀後半の朝鮮における民衆統制策と対外危機――大院君執政期を中心に」
公開講演(於 上智大学7号館特別会議室)
樺山 紘一氏(東京大学名誉教授・印刷博物館館長)「歴史学とミュージアムの往還」
2018年11月20日、上智大学史学大会で行われた特別講演会では、樺山紘一先生により「歴史学とミュージアムの往還—2つの知識・機構の並走のために」と題してお話しいただいた。
先生は、国立西洋美術館や印刷博物館の館長を務められた経験から、歴史学とミュージアム(博物館、美術館)が共有する六本の「道」について話された。「道」とは両者の共通点や共有できる価値観のことだが、これらを通した歴史学とミュージアムの協力体制(いわば「往還」)が、人文諸科学の発展のために非常に重要なのである。
1、 啓蒙主義の申し子たち
歴史学とミュージアムは、どちらも18世紀後半のヨーロッパにおいて、啓蒙主義の思想のもとに誕生した。たとえば、大英博物館は、元々、書物、絵画、植物、骨格標本などを含む雑多な個人的コレクションが国家に寄贈されたもので、これらを管理・展示する組織が世界初の博物館となったのであった。それは物事の知識を正確に把握・共有し、生活をより合理的なものにしようという啓蒙主義的な試みの一環だった。一方、歴史学の誕生の例としてはエデュアルド・ギボン『ローマ帝国衰亡史』が挙げられるが、こちらはイギリスの一般市民に、ローマ帝国の滅亡について論じるための共通認識を与えることを目的としていた。
2、 国家という枠組みの安住と不安
19世紀初頭、ヨーロッパ各国で民主的近代国家の概念が誕生するが、歴史学とミュージアムはその枠組みの中で育まれた。フランスでは国立公文書館が整備され、国家という枠組みのもとに史料の収集・保存が可能になった。歴史学は、これら文書館とアーキビストの協力のもとに史料に基づいた分析を行い、その結果、国家に対する批判さえも可能となったのである。
つぎに、取り扱う素材と方法について。
3、 MLA連携という問題提起と歴史学
伝統的には、文書史料は歴史学が読み解くもの、モノ資料は博物館が管理するものであるという線引きがなされてきたが、いまや歴史学の研究対象はその線引きを飛び越え、広範な「史料」を取り扱うようになった。歴史学の発展のためには、博物館・図書館・文書館(Museum,Library, Archives)のMLA連携は避けて通れない道である。それぞれの制度や成立の歴史は違うが、これらが連携してこそ、歴史学的課題の解決につながるはずだ。
4、 文化財の在地原則博物館は、その収蔵品をどのように展示・保存すべきか、ということについて様々な意見がある。在地原則とは、文化財は本来それが置かれていた場所で展示すべきであるという考え方だが、これは必ずしも守られてはいないのが現状である。これら文化財が、元々どこに由来するかということを解き明かすのは、歴史学の役割なのではないだろうか。
5、 文化遺産の意味を問い直す
グローバル化のすすむ現代において、文化遺産のもつ意味合いにも吟味が必要になってきた。たとえば、現在ある民族博物館の多くは、支配国が植民地から持ち帰った物品によって構成されている。ポストコロニアルの時代である現在では、こうした業績が植民地主義に基づいたものであると批判されている。かつて植民地であった国々は、支配国の視点ではなく、自国の視点で彼らの歴史を見るために、文化遺産の返還を求めている。博物館も歴史学も、価値の再検討・再定義を迫られているのではないだろうか。
6、 教育的価値にてらして
歴史学にとっても、博物館にとっても、その利用者(来場者、一般読者)に目を向けることが必要である。必ずしも専門的知識を有しない彼らに、我々は研究や調査の成果をどのように説明し、その問いに応じるべきか。先生はその答えの一つとして、印刷博物館におけるこども向けの体験学習の例を挙げて語られた。
質疑応答では、日本でのMLA連携への取り組みについて、また印刷博物館の運営についての質問と応答がなされ、豊かな意見交換の時となった。
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