2016年11月20日(日)14時30分から上智大学7号館特別会議室において開催されました、
上智大学史学科教授大澤正昭氏、上智大学史学科非常勤講師大川裕子氏、
東京外国語大学AA研共同研究員村上陽子氏による、
上智大学史学会第66回大会公開講演の模様を掲載させて頂きます。
大川裕子 氏(上智大学史学科非常勤講師)
村上陽子 氏(東京外国語大学AA研共同研究員)
「明清時代の二つの農書――現地調査を踏まえて、環境的制約とその超克を考える――」
本講演では現在問題とされる中国の食糧問題を出発点とし、明清時代の二つの農書と現地調査を手がかりに中国前近代農法の到達点を明らかにしたうえで、農業の再評価をしてみることが主題とされた。
まず、大澤氏から今回取り扱う『農言著実』と『補農書』に関する概略が示され、前者が乾燥強風地域である黄土高原での農業について書かれた農書であり、後者は一般には湿潤とされる太湖デルタ地域について書かれた農書であることを確認した。
それを踏まえた上で『農言著実』の舞台である陝西省の三原県については村上氏から、
『補農書』の舞台である桐郷周辺については大川氏から、それぞれ現地調査の内容について地図や写真等を交えながら報告が為された。
北部の調査に関しては『農言著実』に記述されるような農具・作物などが三原県付近の農村に残存していたため実りの多い調査となった一方で、南部の浙江省の桐郷周辺では開発による地形の変化や伝統農法の後退などにより史料とのすり合わせが難しい部分もあり、課題の残る調査となったという見解が示された。
その後、大澤氏から現地調査の成果と農書の記述に関する具体的な考察がなされ、
それぞれの地域での個別の環境に対応するために様々な技術が生み出されていたことが指摘された。
しかし、南部に関しては『沈氏農書』と『補農書』の間でも前者が水害、後者が旱害の克服を主要な課題としている点などから、湿潤な江南地域というイメージのみに縛られず、より細かい地域ごとの環境の差異に目を向けることが必要であると指摘された。
最後に、大澤氏は二つの農書に関して、前近代農法の到達点として多肥集約農業などの優れた技術が紹介されているという共通点がある一方で、作物や社会的分業の度合いに関しては南北で大きく異なる点があるとし、双方が「糞多力勤」を志向しながらも色合いの異なる農業経営が為されていたことを確認した。その上で現状の中国が抱える食糧問題については持続可能な再生産構造をより高度な次元で模索していくことが必要であろうとし、今後の研究や社会に対して新たな展望を示す形で講演は締められた。
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