2012/07/23

上智大学史学会・院生会合同7月例会

 2012年7月7日(土)、上智大学史学会・院生会合同月例会が開催されました。報告は、本学大学院に所属しております劉珊珊氏による「清末新政期の「毀学」」、並びに、本学教授である豊田浩志氏による「315年打刻Ticinum造幣コンスタンティヌス貨幣をめぐって」でした。

劉氏の報告では、当時の雑誌や新聞の記事を利用して、なぜ毀学が新政期に湧き起ったか、その原因をどう定めたらよいか等について検討された。

 劉氏は、清末の新式学堂が民衆側には必ずしも必要不可欠のものとは認識されず、むしろ彼らの日常生活から大きく遊離したものとして敬遠されていたと指摘した。さらに、学校の設立運営は、善良な官僚によって行われた場合であっても、民衆の生活を窮地に追い込む性格のものであり、多くの場合学務関係者の営利の手段に利用されたことで民衆の強い反発を招き、捐税の加徴や寺廟の打ちこわしといった過激な行動となって噴出し、いわば普遍的な社会風潮のようになっていったと見解を述べた。


質疑応答では活発な意見交換がなされた。東洋史という広い視点からは、近代アジア民衆運動の暴力化という傾向に対して、劉氏の研究がどのような意味を持つのか質問された。教育史の視点からは、当時の中国における教育観について質問があった。また、暴動の原因を全て民衆による新教育制度への不理解に帰着させるのではなく、当時の社会背景を時系列に沿って考慮すべきであるという指摘もされた。劉氏の応答では、日本の明治維新における教育改革との比較を通して、本会で指摘された疑問点について新たな見解を示したいと、今後の展望が述べられた。

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 引き続いて行われた豊田氏の発表は、最初のキリスト教皇帝として知られるローマ皇帝コンスタンティヌス大帝(以下、大帝)について、彼の肖像が刻印された記念銀貨からアプローチを試みたものである。なお、来年はミラノ勅令発布(西暦313年)千七百周年にあたる。
 
 これまで、大帝のキリスト教洗礼を疑問視する先行研究も存在した。しかし氏の研究は、現存する315年打刻の三つの記念銀貨の図像の相違点、大帝以後の諸皇帝が描かれた貨幣や教会図像との相違点を指摘し、大帝のキリスト教皇帝としての実像を探り出そうと試みたものである。これに加え、ローマ帝国における銀本位制、貨幣図像の考察方法に関する説明もあり、他の研究分野の者にとっても関心を抱かせるものであった。

 
 出席者からは、貨幣改鋳による国家財政への影響やローマ貨幣の周辺地域への影響等についての質問がなされた。前者については、銀の含有量の高い貨幣が市中で退蔵される一方、低い貨幣は租税支払のために国家に納められ、それにより国家財政に悪影響を及ぼしたという。後者については交易の決済に使われたローマ貨幣が支払先で現地通貨に鋳直されたこと、ローマ世界が交易上の支払いを通じた金銀の輸出国であったことが補足された。また、出席者により図像上の相違点について、氏の発表とは異なる視点からの指摘もあり、これは氏にとっても新たな視点を見出し、今後の参考となり得たことだろう。