2015/02/25

上智大学史学会第64回大会


2014年11月16日(日)上智大学7号館文学部共用室において、上智大学史学会第64回大会が行われました。大会は以下の要領で開催されました。このブログでは、各部会研究発表の模様および、フェリス女学院大学名誉教授石島紀之氏による公開講演の要旨を載せさて頂きます。

第一部会(日本史):共用室A

 ・新飼早樹子 氏(上智大学大学院)
  「新羅進調物と古代日本の対羅外交―七世紀末から八世紀初を中心に―」

 ・岩井優多 氏(上智大学史学会会員)
  「惟宗氏の氏族的性格に関する一考察―惟宗允亮編『政事要略』の記述を手がかりに   ―」

 ・アンジェリカ・アレンカール 氏(上智大学大学院)
  Diving into an overlooked period of the 16th century Japanese Mission: Francisco     Cabral's administration decade (1570-1580) according to his own accounts.         

 
 稲垣政志 氏(上智大学大学院)
 「満州某重大事件と柳条湖事件に対する昭和天皇の政治的判断―『昭和天皇実録』をもとに―」 


第二部会(東洋史):共用室D



・松浦晶子 氏(上智大学大学院)
 「『皇祐新楽図記』の意義」

 ・中林広一 氏(立教大学兼任講師)
 「乳と農―中国農業史再検討の起点として―」 


 
・佐々木愛 氏(島根大学准教授)
 「宋代道学者は家族をどのように葬ったか ―「中国家族法の原理」を再考する―」
 
・松村史穂 氏(流通経済大学講師)
 「人民共和国成立初期における食糧統制の開始と価格政策」



第三部会(西洋史) :共用室C

 ・豊田浩志 氏(上智大学教授)
 「オスティア遺跡「七賢人の部屋」壁面文字情報」 

 ・櫻井麻美 氏(上智大学大学院)
 「1500年代後半イタリア庭園における「森」の意味―ボマルツォの「聖なる森」の場合  ― 」 


  
西村典之 氏(上智大学大学院)

 「ヘンリ6世の王権」


 
・寺本敬子 氏(跡見学園女子大学助教)
 「1878年パリ万博における前田正名とフランス組織委員会」




14時30分から公開講演が行なわれました。講演は、フェリス女学院大学名誉教授石島紀之氏による 「近代中国民衆の実相を求めて―中国研究半世紀の歩みから―」でした。


 

石島氏の講演では、自身のこれまでの研究を踏まえて、近代中国の社会史(民衆史)における成果と諸問題を報告された。

近代中国社会史を考えるうえで、まず問題となるのは史料の乏しさである。特に他の国と比べ、民衆自らが書いた記録というものが少なく、档案や回想録を使用することが多くなる。しかし、档案に関しても現在では政府等によって様々な制限がかけられており、日本人が自由に閲覧するのは難しいという状況も存在している。

同時に、頭に置いていかなければならないのが中国農村社会の在り方であり、土地所有や階級区分に曖昧な部分が多いため、中国という一つの国家を語るうえでも、各々の地域の特徴を把握する必要があるとし、地方史の重要性を指摘された。

そのような点を踏まえ、中国民衆にとって日中戦争とはどのようなものであったのかを考えると、「生命の保全」という一つの論理が見えてくる。それは日本軍に対する怒りや憎しみ、あるいは共産党や国民党に対する怒り、果ては対日協力という形で表出し、これらの動きからはナショナリズムとも違う、農民自身の生命の希求という願望との密接なかかわりを見出すことができるという論を展開し、新たな視野を提示した。

また、同時に巻き起こった民衆運動の展開に関して、その担い手をよく見てみると、初期は中農や小知識人、遊民などが中心であり、実直な農民は観望していることが多かったと指摘した。しかし、それらの実直な農民も、共産党によって階級意識を煽られ、民衆運動に参加することになり、民衆運動への熱意が人為的に作られていった。

これらの動きを経て、農村社会では土地所有関係に大きく変化が表れ、社会の均質化が進む一方で、農民自身の社会改革に対する向き合い方にも自発性が表れ、中国農民の実際主義的な特徴が見出せるようになったとした。

最後に、多様で広大な中国を理解するためには多様な方法論を用い、日本史の研究者などとの交流もはかり、総合的に歴史をとらえていく必要があるとし、講演を締めくくられた。

石島氏の講演は戦後における近代中国社会史を見つめ直し、今後求められる研究の方向性を明確に示したという意味で、実に意義深いものであったと思われる。